地球流体電脳倶楽部
1996 年 5 月 24 日
火星ではdustが大気中に存在して太陽からの放射を吸収して大気を強く加熱する. このため熱潮汐が顕著にあらわれる. 火星大気の潮汐のモードの主なものは次の4つであると考えられている. (Leovy,1979)
低緯度のみに生じる. 鉛直方向の波長は約30km. 上空で振幅が大きくなる.
高緯度で顕著. 鉛直方向には波の形をしていない.
あらゆる緯度帯に存在する. 鉛直波長は約200km.
上の3つの成分と地形によるforcingとの相互作用により生じる.
火星大気の潮汐については以下のような計算例がある.
Zurek(1976)は火星における潮汐波の計算を行った.
図1はその結果の一例である.
この計算は
におけるダストの無い火星大気に
おける潮汐について行ったものである.
図1に示したのは潮汐による気温の変動である.
縦軸は
Leovy and zurek(1979)はtidal theoryを使って, 火星大気における加熱率の鉛直構造: と太陽放射の吸収率: を求めた. その方法を以下に示す.
バイキング着陸船の観測により次の5つの時期における 潮汐波の振幅が求められている. ただし, 潮汐波の振幅というのは1日の圧力の変動量を 平均圧力に対する比(パーセント)で表したものである.
バイキング1号が着陸してから108日目から112日目までに対応する. これはdust stormが始まる前の時期である.
バイキング1号が着陸してから202日目から207日目までに対応する. これはdust stormの開始期にあたる.
バイキング1号が着陸してから211日目から216日目までに対応する. これはdust stormの期間中にあたる.
バイキング1号が着陸してから266日目から270日目までに対応する. これはdust stormの終了期にあたる.
バイキング1号が着陸してから316日目から321日目までに対応する. これはバイキング1号が着陸してから2度目のdust stormの期間中に当る.
その観測結果を表1に示す. ( )の中の数字は圧力が最大となるlocal timeである.
期間 | 観測から求められた潮汐波の振幅 | |||
バイキング1号による観測 | バイキング2号による観測 | |||
( ) | ( ) | |||
1日周期成分 | 半日周期成分 | 1日周期成分 | 半日周期成分 | |
1.99(7.1) | 1.86(10.5) | 0.90(8.7) | 0.39(10.5) | |
1.18(9.0) | 1.31(10.3) | 0.8(10.2) | 0.7(09.3) | |
2.7(6.7) | 3.8(10.1) | 2.0(07.6) | 0.9(09.2) | |
2.1(6.2) | 1.8(10.7) | 1.2(09.7) | 0.9(09.0) | |
2.6(7.7) | 4.0(11.3) | 1.2(10.7) | 1.1(09.0) |
Leovy and Zurek(1979)は各時期において観測値を
最も良く説明することのできる加熱率の鉛直構造: と
太陽放射の吸収率: を求めた.
そのため加熱率の鉛直構造は
で
あらわされる4種類に限ると仮定した.
そのうちの3種類:
は図2に示したものであり,
残りの は
期間 | 潮汐波の振幅の計算値 | |||||
バイキング1号の地点 | バイキング2号の地点 | |||||
( ) | ( ) | |||||
1日周期成分 | 半日周期成分 | 1日周期成分 | 半日周期成分 | |||
0.41 | 1.99(7.1) | 1.86(10.5) | 0.90(8.7) | 0.39(10.5) | ||
0.27 | 1.18(9.0) | 1.31(10.3) | 0.8(10.2) | 0.7(09.3) | ||
0.64 | 2.7(6.7) | 3.8(10.1) | 2.0(07.6) | 0.9(09.2) | ||
0.38 | 2.1(6.2) | 1.8(10.7) | 1.2(09.7) | 0.9(09.0) | ||
0.67 | 2.6(7.7) | 4.0(11.3) | 1.2(10.7) | 1.1(09.0) |
謝辞
本稿は 1989 年から 1993 年に東京大学地球惑星物理学科で行われていた, 流体理論セミナーでのセミナーノートがもとになっている. 原作版は石渡正樹による「火星現象論」 (1989/05/19) であり, 林祥介によって地球流体電脳倶楽部版「火星現象論」 として書き直された (1996/06/23). 構成とデバッグに協力してくれたセミナー参加者のすべてにも 感謝しなければならない.
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