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木星の起源:惑星のガス捕獲

生駒 大洋(東工大・理) mikoma@geo.titech.ac.jp
2004 年 3 月 6 日
タイトルぺージ


本講演の趣旨


全体目次


第一部タイトル: 背景と基礎


太陽系の惑星
  • 最近は木星・土星と天王星・海王星をわける
  • 木星・土星は gas giant planet と呼ばれる
  • 天王星・海王星は ice giant planet と呼ばれる


木星型惑星の内部構造
  • 重力場の観測から密度分布を推定
  • 密度分布を説明できるような組成を考える
  • 以下では固体核の部分を「コア」と呼ぶ


木星型惑星の特長
  • 主成分はガス


太陽系形成標準モデル
  • 通称「京都モデル」
  • 星雲ガスの散逸機構はあまりよくわかっていない


星雲ガスに埋もれた原始惑星
  • 大気と星雲ガスの境界はどこにあるか?


大気を持つ条件
  • 大気とは「コアの重力によって束縛されたガス」
  • ボンディ半径よりも内側を大気と呼ぶ
    • ボンディは人名


大気を持つ条件: 木星軌道における場合
  • 温度は太陽の放射によって決まる温度(輝度の 1/4 乗に比例)
  • 木星軌道では, コアが月ぐらいの大きさになると大気を持てるようになる


コア質量と大気質量の増加
  • コアが成長している途中での, 大気構造の計算例
  • 温度は放射と対流によって決まるとする


高密度大気の自己重力
  • 深部の高密度大気による重力も無視できない
  • 地球型惑星ではコアからの重力だけを考える


大気を支えるための熱源
  • 圧力を高めるために密度を上げるのはダメ
  • 熱源は衝突する微惑星の運動エネルギー
    • コアの質量も増加することに注意
    • 深部での加熱はボンディ半径の大きさには影響しない


大気の自己重力不安定:
基本的な考え方


大気の自己重力不安定:
臨界コア質量を越えた場合のプロセス
  • 恒星の進化との違いは微惑星の有無: 恒星の場合は初めからガスが収縮
  • 木星自体は冷却していると仮定


木星形成モデル(水野モデル)
  • 英語で Mizuno Model とは呼ばれていない
  • 恒星進化における暴走的ガス捕獲は gas instability と呼ばれる


臨界コア質量の制約条件: 現在のコア質量


臨界コア質量の制約条件: 星雲ガスの寿命


ここでの「木星を作る」の定義
  • 項目 2 の趣旨は, 「現在のコアよりも大きな臨界コアをつくって, 短時間に無理矢理ガスを捕獲して木星を作る, ということはしない」ということ


模式図


役割分担
  • 本講演の話題は「項目1」


これまでの木星形成に関する理解 (1980 年代に確立)
惑星集積理論に不備があると考えられていた
  • コアを作るのに 1 億年かかってしまう

その後理解の変化

  • 現在のコア質量は地球質量の 10-30 地球質量かどうかあやしい
  • 木星と土星のコアのサイズは異なる
  • そもそも臨界コア質量は地球質量の 10-20 倍?


第一部まとめ


この後の流れ


タイトルページ


惑星モデル
  • コア, 大気, 星雲ガスが存在
    • 本当に球対称としていいか, 確証はない.
    • 地球では大気を薄い平板としてとらえる (球対称としない)
  • 大気は定常であるとする


大気構造を決める(微分)方程式


基礎方程式: 力の釣合
  • 重力: 万有引力
    • Mr: 半径 r の内側にある全ての質量
    • 分厚い大気を考えているので, 大気の質量も考慮
  • 圧力の差で重力を支える
  • 釣合の式は静水圧の式になる
    • 密度は状態方程式から計算


基礎方程式: 圧力と密度の関係
  • 平均分子量の変化も温度と圧力の式として計算
    • 温度を決めるのは輻射


基礎方程式: 輻射できまる温度
  • 2 枚の黒体の板の間の正味の熱フラックス
  • 球対称であることを考慮
    • 地球のような平行平板: フラックスは一定
    • 球対称の場合: フラックスは面積に比例 --> L = 4 πr^2 F


基礎方程式: 対流できまる温度
  • 大気は断熱変化(等エントロピー変化)
  • ある高度で熱を解放
  • 大気構造はポアソンの関係式でかけるようになる
    • フラックスや吸光係数には依らない


基礎方程式: エネルギー収支
  • r + Δr と r での差から表現
  • 非定常状態では, 大気の収縮膨張に関係する量を追加


微惑星の運動エネルギー
  • エネルギー = 1 g 当たりのエネルギー x 微惑星集積率(単位時間あたりに降って来る量)


吸光係数
  • 吸光係数は温まりやすさの指標
  • κL なので, L と同じだけ重要. しかし決め方が難しい


ダストの吸光係数
  • 吸光係数はモデルから計算することにする


境界条件
  • コア半径
  • コア半径での熱フラックス
  • 外側の星雲ガスと連続(温度, 密度同じ)


定常解
  • 100 万年で地球質量が微惑星によって集積するとしたときの計算
  • コアの質量は与える
  • 灰色大気だけど, シリケイト, 氷が含まれる. そのため構造がカクカクする


定常解: 大気質量の増加
  • コアの質量増加 -> 大気質量増加
  • 10 地球質量以上では定常解がなくなる
    • 大気の収縮が始まる
  • 定常解がなくなる限界コア質量 = 臨界コア質量


非定常解: 大気質量の増加
  • 大気の収縮による熱の発生を考慮
    • 大気の収縮 = 大気のスケールハイトが小さくなる
  • パラメタは定常解と同じ
  • 臨界コア質量を越えると急激にガス捕獲
  • 臨界コア質量になるまでは定常解と同じ


非定常解: 熱フラックス
  • 臨界コア質量で熱供給のメカニズムが異なる
  • ルミノシティは結果として求まる


まとめ
  • 臨界コア質量: 熱的に定常状態でいられるぎりぎりのコア質量


この後の流れ


タイトル


内容
  • 微惑星集積率と吸光係数で臨界コア質量がどう変化するか?


微惑星集積率と限界コア質量
  • 今までは 10^-6. 今回は 10^-5, 10^-7 でも計算
  • 集積率が大きいとスケールハイトが大きい
  • 大気質量を与えた場合の計算


微惑星集積率と限界コア質量
  • 集積率が大きいと臨界コアは大きくなる
  • 依存性はそれほど大きくない


臨界質量に早く到達したい
  • 微惑星集積率を上げる
  • 熱の供給を止める -> 大気は収縮するしかない = 臨界コア


微惑星集積率をあげても
  • 制約にうまく合わない
    • 現在のコアは 10 倍の地球質量
    • 1000 万年で星雲ガス消失


微惑星集積率を途中で止めても
  • 微惑星集積を止めるとすぐにガス収縮. 大気が自分で冷えて熱を供給
  • 余計に時間がかかる


大気質量の増加
  • 微惑星収縮を止めてからの時間進化を切り出して見る
  • フェーズが 3 つ存在
    • ゆるやかな時間変化を知ることが重要


熱を捨ててガス捕獲
  • 熱が逃げていくことが問題
  • エネルギー保存式
    • 重力エネルギーと熱エネルギーの時間変化が逃げる熱フラックス
  • ガス捕獲時間が見積もれる. 効率的に熱を捨てれるか


熱フラックスの変化
  • 微惑星の集積を止めたことでエネルギー供給が切れる
    • 加熱源がなくなるために, その温度構造を保てなくなり急激に冷える
    • 大気のスケールハイトが縮む分, 周囲のガスを取り込み, 急激にガス質量が増える
  • ある程度温度が下がると, 大気がゆっくりと縮みながら周囲のガスを取り込む
    • 解放される重力エネルギーは惑星半径程度なので, 出す熱フラックスも小さい
  • ガスの質量が大きくなると自己重力が大きくなり, 暴走的に成長


臨界エネルギーフラックス
  • コアに対して最低限必要な熱フラックス = 臨界熱フラックス
    • 少ないと大気の収縮が始まる


コア質量とガス捕獲時間との関係
  • コアが小さくなるとガス捕獲時間は急激に長くなる
    • 1 地球質量だと 100 億年
  • やっぱり途中で止めてもダメ
    • 10 倍地球質量以上のコアが必要


ダストに頼る


「大気のダストは少ない」という意見
  • ある程度微惑星衝突が生じた後, 木星に衝突


「大気のダストは多い」という意見
  • 微惑星が大気中で部分蒸発 -> ダストをばらまく


大気中のダストの吸光係数
  • ダストの性質はよくわからない
  • 適当なパラメタ f を用いたパラメタライズを用いる


臨界コア質量とダスト吸光係数
  • 輻射が卓越するような領域で吸収係数を小さくする
  • 温度によって吸収物質が異なることを想定


臨界コアの形成時間
  • ダストを減らすと, ギリギリ観測に合う


ここまでのまとめ


この後の流れ


タイトル


内容
  • 微惑星と大気の相互作用を考える


話しの流れ
  • より現実的なコア形成を考える


コアの暴走的成長
  • 秩序的成長
    • 2 つが 1 つに.
  • 暴走的成長
    • 1 つのものが周囲のものを食い尽くす
    • 重力で引き付けて成長


暴走的成長の頭打ち
  • 重力的に周囲の微惑星を振り回す -> なかなか微惑星が捕まらない
  • 地球質量のコアの成長時間 = 4000 万年
  • 暴走成長では成長が頭打ちになり, 時間がかかりすぎる


微惑星を壊す
  • 微惑星同士の衝突 -> 破壊
  • 小さい天体ほどガスの抵抗を受ける
    -> ランダム運動が押えられる
    -> 暴走的成長の頭打ちを回避できる?


微惑星を増やす: なぜ?
  • 林モデル
    • 現在の太陽系の元素組成, 存在量によって, 昔の太陽系を再現
    • 最小質量星雲モデル
  • 0.1 地球質量集積するのでも 1000 万年かかる


微惑星を増やす: どれくらい?
  • 観測による星雲質量の頻度分布
    -> 0.001 -- 0.1 Solar
  • 林モデル 0.01 Solar
  • 本研究では 0.1 Solar


破片は太陽にも落ちる
  • 破片と星雲ガスの摩擦
  • 摩擦によりケプラー回転からずれる
  • 微惑星を壊し, さらに太陽へ落ちるまえにコアへ集積させる


破壊を考慮した場合のコア形成
  • 図の縦軸は累積の質量.
    • 縦軸との切片が系に存在する総質量を示す
  • 100 万年もたつと, 80 % が太陽へ落ちる.
    20 % でコアが作られた.


破壊を考慮した場合のコア形成
  • 林モデルの 10 倍にした時 -> 赤印(括弧内は太陽からの距離)
  • 破片はほとんど太陽へ落下
    • 破壊を考慮し, 太陽への落下だけ考慮した場合には説明できない.


大気による微惑星の捕獲
  • 破壊した場合に他の効果は無いか?
  • 大気の構造を仮定し, 軌道計算. 重力場から逃げられるか調べた
  • 大気の効果で, コアに集積されるようになる


大気摩擦を考慮した時のコア成長
  • 林モデルの 10 倍
  • 圧倒的に早くコア集積が生じる
  • 図 a の C, D を比べると増えている. 外側から落ちてきたものを集積したことを示す.


大気摩擦を考慮した時のコア成長
  • 大気の捕獲の効果を考慮すると, 臨界コア質量に到達する
  • 林モデルの 5 倍程度を考えると良さそう.
    -> 他の効果を入れたら林モデルの 1 倍程度になる?


氷微惑星による大気汚染
  • 微惑星は大気中を透過してコアまで到達できない.
  • 水素・ヘリウム大気 --> 炭素・酸素大気に


大気汚染の効果
  • 大気中の重元素が増加
    -> 平均分子量増加
    -> 臨界コアは小さくなる
  • CO2 等が入るので吸光係数が大きくなる
    -> 臨界コアは大きくなる


現在の重元素量
  • 観測に基づく理論的予測
  • 全重元素量 > コア質量
  • エンベロープを重元素リッチにしても OK.


大気汚染を考慮した臨界コア質量
  • 重元素量を増やすと....
    • 始めは吸光係数の効果で臨界コア質量が増加
    • その後は平均分子量の効果で臨界コア質量が減少


大気汚染によるガス捕獲時間の短縮
  • 重元素の効果でガスの集積にかかる時間が短縮される
  • 暴走成長が始まるまでの捕獲時間


臨界状態での大気質量
  • 臨界状態では大気質量とコア質量の比がほぼ一定
  • 赤線はある状態からガス捕獲を開始したときの 重元素比および大気質量の変化を示す
  • 星雲ガスは水素ヘリウムなので, 重元素の多い大気は薄まる


星雲ガス捕獲による希釈
  • 大気の質量が 1 桁増えると, ガスの捕獲時間は 4 桁減少
  • 正味のガス捕獲時間も早くなる


大気汚染による形成条件の緩和
  • 重元素分率が高ければ林モデルの 3 倍程度でも木星が形成できる


まとめ: 何が起きたか


まとめ: 何が起きたか


まとめ: 何が起きたか


まとめ: 何が起きたか


まとめ: 何が起きたか


議題
  • なんで地球は木星にならないのか
    • 微惑星の破片がたくさん落ちて来るはずでは.
    • それを取り込んで臨界質量に達する可能性は?
  • 土星問題
    • 集積時間がかかりすぎる -> 土星は作れない?
  • 木星はうまく作れたようだけど, 今までの太陽系形成シナリオとの整合性は?


参考文献
  • Beckwith, S. V. W., and A. I. Sargent, 1996: Circumstellar disks and the search for neighbouring planetary systems. Nature, 383, 139-144.
  • Ikoma, M., K. Nakazawa, and H. Emori, 2000: Formation of giant planets: dependences on core accretion rate and grain opacity. ApJ, 537, 1013-1025.
  • Inaba, S., G. W. Wetherill, and M. Ikoma, 2003: Formation of gas giant planets: core accretion models with fragmentation and planetary envelope. Icarus, 166, 46-62.
  • Inaba, S. and M. Ikoma, 2003: Enhanced collisional growth of a protoplanet that has an atmosphere. A&A, 410, 711-723.
  • Podolak, M., 2003: The contribution of small grains to the opacity of protoplanetary atmospheres. Icaurs, 165, 428-437.
  • Podolak, M., J. B. Pollack, and R. T. Reynolds, 1988: Interactions of planetesimals with protoplanetary atmospheres. Icarus, 73, 163-179.
  • Pollack, J. B., D. Hollenbach, S. Beckwith, D. P. Simonelli, T. Roush, and W. Fong, 1994: Composition and radiative properties of grains in molecular clouds and accretion disks. ApJ, 421, 615-639.
  • Tanaka, H., and S. Ida, 1999: Growth of a migrating protoplanet. Icaurs, 139, 350-366.
  • Wuchterl et al., 2000: Giant planet formation. in Protostars and planets IV, Arizona Press, 1081-1109.

小高 正嗣 & 杉山 耕一朗 (2004-03-12) © 森羅万象学校企画グループ