: B. 乱流パラメタリゼーション
: 湿潤大気における 2 次元非静力学モデルの定式化
: 2. 参考文献
地球大気における湿潤対流の定式化同様, 大気の乾燥成分と湿潤成分の
分子量の差を密度の式には考慮するが, 熱の式には考慮しないような
系を考える. またガスは理想気体であるとみなす.
このような系では温位
が非凝結時の保存量として使える.
3 次元大気の状態を
気温
, 圧力
, 風速
, 密度
で表現する場合,
一般的な圧縮性流体の方程式系は以下のようになる
A.1.
- 運動方程式
-
- 熱力学第一法則
-
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(A.4) |
- 状態方程式
-
- 密度の時間発展方程式
-
ここで
は凝結物も含んだ単位質量の気塊の定圧比熱,
は非断熱加熱,
は比湿,
は雲水比湿,
は雨水比湿である.
は, 凝結成分の数だけ存在する.
,
,
はそれぞれ
乱流拡散項, 生成消滅項, 落下項を意味する.
以下では, 温位
, エクスナー関数
, 風速
を予報変数と
する場合の基礎方程式系を導出する.
(A.5), (A.6) より
ここで
と置くと,
 |
|
|
(A.14) |
となる.
但し
,
はそれぞれ非凝結性ガスの気体定数, 凝結性ガスの気体定数
である.
は気体定数の密度の重みつき平均であり, 本文書では平均
気体定数と呼ぶことにする.
普遍気体定数を
として,
と置く.
但し
,
はそれぞれ非凝結性ガスの分子量, 凝結性ガスの分子量を表
す.
また
を平均分子量と呼ぶことにする.
を定数とみなしているので,
もまた
定数となることに注意されたい.
ここで仮温度
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(A.16) |
を導入すると,
となる.
更に温位
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(A.18) |
及びエクスナー関数
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(A.19) |
並びに仮温位
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(A.20) |
を導入すると,
となる.
ここで
である.
,
はそれぞれ非凝結性ガスの定圧比熱, 凝結性ガスの定圧比
熱を表す.
本文書では
を平均定圧比熱と呼ぶことにする.
(A.21)に(A.19)を代入して
を消去し,
について整
理すると,
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|
(A.23) |
となる.
(A.4) において, 凝結物の比熱がガスの比熱に比べて十分小さいとみ
なすと,
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(A.24) |
と近似される.
さらに凝結物は全密度に比べて十分小さいとみなすと,
 |
(A.25) |
と近似される.
,
が一定であるとみなし,
のラグランジュ微分をとると,
となる.
但し式変形の途中で (A.14) を用いた.
非断熱加熱として凝結加熱
, 放射加熱
, 散逸加熱
を考慮し, また乱流拡散も考慮すると,
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(A.27) |
が得られる.
予報変数として温位を用いる際には
,
があまり大きく変化することを許容しないことを前提とするので, 計
算の適用範囲に制約が加わることに常に注意しなければならない.
となると仮定して
(A.7) - (A.10) の和をとると,
 |
(A.28) |
が得られる.
但し
となる
ことを用いた.
(A.7) - (A.10) 及び (A.28) より
ここで
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(A.32) |
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(A.33) |
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(A.34) |
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(A.35) |
と置くと,
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(A.36) |
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(A.37) |
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(A.38) |
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(A.39) |
を得る.
但し,
の関係が成り立つので,
については時間発展方程式を解かずに, 診断的に求めることとする.
圧力方程式は密度の式と連続の式を組み合わせることで得られる.
(A.23) のラグランジュ微分をとると,
となる.
ここで
は音速であり,
 |
(A.41) |
である.
(A.41) に (A.28) を適用すると,
となり, 圧力方程式が得られる.
運動方程式の圧力勾配は, 温位とエクスナー関数を用いることで得られる.
(A.19), (A.21) より
となる.
以上より
が得られる.
以上より, 3 次元大気の状態を
温位
, エクスナー関数
, 風速
, 密度
で表現する場合, 基礎方程式系は以下のようになる.
- 運動方程式
-
- 圧力方程式
-
- 状態方程式
-
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(A.49) |
- 熱の式
-
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(A.50) |
- 凝結性ガスおよび凝結物の比湿の式
-
ただし, エクスナー関数
は,
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(A.54) |
であり, 音速
は
である.
準圧縮方程式系では, 変数を基本場と擾乱場に分離し, 線形化を行う.
変数を基本場と擾乱場に分離し, 基本場は静水圧平衡にあると仮定する.
この時, 変数は以下のように書ける.
ここで基本場の風速
と雲水比湿と雨水比湿はゼロとみなした.
そして基本場には静水圧平衡
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(A.56) |
の関係が成り立つものとする.
水平方向の運動方程式を基本場と擾乱場に分離する.
上式において移流項以外の 2 次の微小項を消去し, さらに基本場は
方向に
は変化しないことを利用すると, 以下の擾乱成分の式が得られる.
鉛直方向の運動方程式を基本場と擾乱場に分離する.
上式において移流項以外の 2 次の微小項を消去すると以下となる.
さらに静水圧の式
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(A.59) |
を利用すると以下のようになる.
仮温位
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(A.60) |
を基本場成分と擾乱成分に分けると,
となるので, 浮力項は
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(A.63) |
と書き換えられる.
従って線形化された鉛直方向の運動方程式は
となる.
Klemp and Wilhelmson (1978) では, 非断熱的な加熱による熱膨張と
凝結に伴う圧力変化を無視しているが, 本モデルではこれを無視しない.
(A.43) に (A.37), (A.38) を代入する
と,
となる.
(A.68) の左辺を線形化すると,
となる.
乱流拡散項・生成項・雲粒落下項は擾乱成分とみなすと,
圧力方程式を線形化したときの
, 及び
からの寄与は基本場成分のみとなる.
従って (A.68) の右辺を線形化すると,
従って線形化された圧力方程式は
と表される.
ここで
となる.
(A.69) の右辺第 3 項, 第 4 項をまとめると,
以上より,
である.
熱の式を平均成分と擾乱成分に分離する.
ここで平均場の量は
の関数であることを用いると,
となる.
凝結成分の比湿の保存式についても, 変数を平均成分と擾乱成分に分離する.
熱の式と同様に, 以下のように書ける. 但し, 生成項, 落下項は擾乱成分のみ
存在すると仮定する. この仮定は平均場では凝結は生じていないと考えることに
等しい.
但し雲水量と雨水量は擾乱成分のみの量である.
準圧縮方程式系におけるエネルギー方程式を導出する.
(A.60), (A.61),
(A.67) にそれぞれ
,
,
を掛けて足し合わせると
となる.
但し
,
,
と置いた.
連続の式
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(A.73) |
 |
(A.74) |
より
 |
(A.75) |
となる.
但し
であ
ることを用いた.
(A.78) を用いると, (A.75) の右辺第 1 項は
となる.
また (A.70) を用いて (A.75) の右辺第 2 項を書き換えると
となる.
但し
である.
(A.78) より任意のスカラー量
について
 |
(A.79) |
が成り立つ.
(A.71) 及び (A.82) を用いて (A.75) の右辺第 4 項,
第 5 項を書き換えると,
但し
である.
(A.79), (A.80), (A.83), (A.84), (A.85)
より (A.75) は以下のように書き換えられる.
計算領域として矩形領域を想定し, 鉛直方向の境界からの流出は無く, 水平境界
の両端では周期的であるとすると, 計算領域境界面でのフラックスはゼロとなる.
従って (A.88) を全計算領域にわたって積分すると,
となり, 準圧縮方程式に関するエネルギー方程式が得られる.
(A.89) の左辺は全エネルギーの時間変化を表している.
左辺の被積分関数の第 1 項, 第 2 項, 第 3 項はそれぞれ運動エネルギー, 浮
力による位置エネルギー, 弾性エネルギー(熱エネルギー)を表す.
右辺第 1 項は準圧縮近似によって現れる項であり, 一般にゼロとなることはな
い.
非断熱加熱や乱流拡散や基本場の空間変化が存在しなかったとしても, 右辺がゼ
ロとなることは無い.
即ち, 準圧縮方程式では全エネルギーが保存されることはない.
準圧縮方程式系は以下のようにまとめられる.
- 運動方程式
-
- 圧力方程式
-
- 熱の式
-
- 比湿の保存式
-
- エネルギー方程式
-
- ...
一般的な圧縮性流体の方程式系は以下のようになるA.1
-
本モデルは水平鉛直 2 次元であるが, 将来のモデルの開発計画を見据え, 本付
録においては 3 次元の方程式系を導く.
: B. 乱流パラメタリゼーション
: 湿潤大気における 2 次元非静力学モデルの定式化
: 2. 参考文献
Yamashita Tatsuya
平成21年12月9日